はじめに
2026年10月21日の夜から22日にかけて、PHPの脆弱性への対応で官公庁や企業のホームページが一斉に止まりました。WordPressはPHPで動くので、このあと「WordPressをやめるなら次はどこか」という話が増え、その候補として、CloudflareのCMS(管理画面からホームページを更新する仕組み)「EmDash」の名前がよく挙がっています。9月28日に1.0が出たばかりで、WordPressの後継と名乗っていることが理由です。
この記事では、会社のホームページの移り先として、EmDashにするか、静的サイトにするかを比べます。どちらもAstroという同じ土台の上にあり、違いは管理画面とデータベースを持つかどうかに集まります。当社はWordPress・PHPサイトの静的サイト化をAstroで請け負っていて、EmDashでの構築もご相談いただけます。
EmDashとは
EmDashは、Cloudflareが2026年4月1日に開発者向けのプレビューとして公開したCMSです。Cloudflareは発表の記事で「WordPressの精神的後継」と呼んでいます。WordPressのプログラムは使わず、一から作り直したものです。プログラムはGitHubで無料公開されていて、誰でも使えます。9月28日に1.0が出て、プレビューから本番で使える版になりました。Cloudflare自身のブログもEmDashで動いています。
特徴は次のとおりです。
- WordPressに似た管理画面がある。固定ページ、投稿、メディア、メニュー、カテゴリーやタグを管理画面で扱い、下書き、公開日時の予約、公開前の確認用URLが使える(公式サイト)
- 見た目の部分はAstroで作る。Astroはホームページを作るための道具で、当社が静的サイトを作るときにも使っている。EmDashは、そのAstroに管理画面と、記事をしまっておくデータベースを足したものと考えてよい
- プラグイン(機能を足す部品)を1つずつ隔離して動かす。WordPressではプラグインがサイト全体に触れたが、EmDashではプラグインごとに箱を分け、管理者が許可したことしかできない(1.0の発表)
- 動かす場所はCloudflareか、自分で用意したサーバー。公式の説明は、Cloudflare上で動かすのがいちばん合うが、ほかの場所でも動くと書いている
静的サイトとは
ページを先にHTMLにして、サーバーにはそのファイルだけを置く作りです。公開サーバーでPHPもデータベースも動かないので、10月21日の夜に公開ページ側で急いでやることがなくなります。WordPressの管理画面はなくなり、更新は担当者が手順書で直すか、制作会社に頼むか、更新が多ければ管理画面のサービスを別に足します。
詳しくは次の記事に書いています。
EmDashと静的サイトの比較
まず、ホームページが見られるときにサーバーの中で何が起きているかを、WordPressも入れて並べます。
EmDashと静的サイトを項目ごとに比べると、次のとおりです。
| EmDash | 静的サイト | |
|---|---|---|
| 管理画面 | ある。WordPressに近い | ない。手順書、更新代行、または管理画面のサービスを別に足す |
| 更新のしかた | 管理画面で書いて公開ボタン。予約公開と下書きがある | 担当者か制作会社がページを直して公開。予約公開は手で行う |
| 動く場所 | Cloudflareのサービスの上か、自社で用意したサーバー。記事をしまうデータベースと画像の置き場が要る | HTMLを置けるホスティングならどこでも |
| 費用のかかり方 | ソフトは無料。Cloudflareの無料枠で動くが、隔離したプラグインを使うには有料プラン(月5ドルから)が要る | ホスティング代。小規模なら無料枠に収まることが多い。フォームのサービス代が別に要ることがある |
| 保守 | CMS本体とプラグインの更新。1.0が出て1か月で、更新は続く | ホスティングの契約とフォームの送信先。ページの中身以外に更新するものがほぼない |
| プラグイン・機能 | EmDash用のプラグインを公式の一覧から入れる。WordPressのプラグインはそのまま使えない | 必要な機能だけを個別に作るか外部サービスで足す |
| フォーム | プラグインか外部サービス | 外部のフォームサービスか、送信だけ受ける小さな仕組み |
| WordPressからの移行 | 書き出しファイルか専用プラグインで記事、固定ページ、画像、カテゴリーを取り込める。見た目は作り直し | 記事も見た目も作り直し。URLは極力そのまま |
| 向く会社 | 記事を週に何本も、複数人で、管理画面から出す会社 | 会社案内とお知らせが中心で、更新が月に数回までの会社 |
費用の根拠を書いておきます。EmDashの公式ドキュメントは、プラグインを隔離して動かす機能はCloudflareの有料プラン(Workers Paid)でしか使えないと書いていて、その有料プランは月5ドルからです。この機能を外せば無料プランでも動きますが、そのときは公式の一覧からプラグインを入れられなくなります。記事をしまうデータベースと画像の置き場にも無料枠があり(CloudflareではD1とR2という名前のサービス)、会社案内の規模なら収まる範囲です。画像の縮小などの加工は月5,000枚まで無料で、超えると課金されます。この金額はいずれも2026年10月24日時点の公式ページの記載です。
ここで気をつけたいのは、サーバー代が月5ドルでも、それを設定して面倒を見る人の費用は別だということです。Cloudflareの管理画面はSaaSの管理画面ですが、EmDashを入れる作業は技術者が命令を打ち込んで進めるもので、情シスの方が自分で入れるものにはなっていません。制作会社に頼むなら、構築費と保守費がWordPressのときと同じように乗ります。
向く会社の見分け方
どちらに移すかは、次の順に考えると決まります。
細かく見るなら、次の4つです。
| 見るところ | EmDashが向く | 静的サイトが向く |
|---|---|---|
| 更新の頻度 | 週に何本も記事を出す | 月に数回のお知らせまで |
| 更新する人数 | 複数人が書き、権限を分けたい | 1人か、制作会社に送って反映 |
| 予約公開と下書き | 人事異動の告知を4月1日0時に出す、のような運用がある | 公開日の朝に手で出せる |
| 社内に触れる人 | いる、または保守会社に継続して頼める | いなくてよい。ページを直すだけなら手順書で足りる |
更新が月に数回までなら静的サイトです。管理画面を持つと、その管理画面を守り、更新し続ける仕事が残ります。更新の回数が少ない会社では、その仕事のほうが更新そのものより大きくなります。
記事を週に何本も複数人で出す会社は、EmDashか、microCMSのようなヘッドレスCMS(記事を書く管理画面だけを貸してくれるサービス)です。手順書や更新代行では回りません。この2つの比べ方は記事73のヘッドレスCMSの節に書いたとおりで、EmDashはそのうち管理画面と表示を1つにまとめた形です。
会員、予約、ECがWordPressのプラグインで動いていて業務に組み込まれている会社は、どちらにも急いで移さないほうがいいです。EmDashにもWordPressのプラグインはそのまま移らず、静的サイトではその機能ごとに代わりを用意することになります。次の節で書きます。
EmDashを選ぶときに確かめること
EmDashを選ぶ会社に向けて、公式の資料で裏が取れる範囲で、見積もりの前に確かめておくことを書きます。
移るものと移らないもの
公式の移行ガイドによると、WordPressの管理画面から書き出したファイルを取り込むと、投稿、固定ページ、カテゴリーとタグ、画像が移ります。画像は元のWordPressから取り込むので、移行が終わって確認が済むまで元のサイトを止められません。メニュー、コメント、ロゴ、SEOの設定は、WordPress側にEmDash Exporterという専用のプラグインを入れたときだけ移ります。
移らないものもあります。公開予約や非公開の設定は下書きとして取り込まれ、予約日時は再現されません。ページを組む道具(ページビルダー)で作った部分や、プラグインが本文に差し込んでいた部品は変換されないので、取り込んだあとに1ページずつ見て直すことになります。見た目はWordPressのテーマが使えず、Astroで作り直します。WordPressのプラグインも、EmDash用の形式に作り直すことになります。移行先で同じ機能のプラグインが公式の一覧にあるかは、着手前に確かめてください。
契約と動かす場所
CloudflareのWorkers Paidプランの契約が会社名義で要るか、構築する会社の名義になるかを先に決めてください。WordPressのサーバー契約が制作会社の名義になっていると、その会社と連絡がつかなくなったときにサイトを動かせなくなります。同じことがCloudflareのアカウントでも起きます。アカウントの所有者とログイン情報を自社で持つのが前提です。
1.0から1か月
1.0が出たのは2026年9月28日です。公式の説明では、本体は安定版です。ただ、公式のプラグインなどはまだ試作段階の版で、作りが変わることがあるとも書いています。日本語の解説は、Cloudflareの日本語ブログと、9月末以降に増えた制作会社の記事が中心で、何年も運用した話はまだ出ていません。新しいものを早く採る会社に向き、何かあったときに頼める先を複数持ちたい会社には、まだ早いです。
反対に、EmDashをただ新しいからと避けるのも、理由にはなりません。管理画面が要る会社にとって、プラグインを隔離する作りは、WordPressで繰り返してきた脆弱性対応を減らす方向に働きます。更新の頻度と人数が合うなら、候補に入れてよいCMSです。
WordPressのまま続ける選択
会員やEC、予約がプラグインで動いていて業務の一部になっているなら、WordPressのまま保守を外注する選択が現実的です。移すより、更新と動作確認を任せられる保守会社を持つほうが安く済みます。条件と注意点は記事73のWordPressのまま保守を外注に書きました。
よくある質問
EmDashなら、10月のような停止は起きませんか?
EmDashはPHPを使わないので、PHPの修正版を当てるための停止はなくなります。ただし管理画面とデータベースを持つCMSである以上、CMS本体の脆弱性が見つかれば更新が要ります。PHPが止まった夜にやることが減るのは、管理画面を持たない静的サイトのほうです。
静的サイトにして、あとでEmDashに移れますか?
移れます。どちらもAstroで表示を作り、公式ドキュメントには既存のAstroサイトにEmDashを足す手順があります。静的サイトで作ったページの見た目は、EmDashを足すときに使い回せます。更新が増えてきたら管理画面を足す、という順で進めるのは無理のない選び方です。
まとめ
- EmDashはCloudflareが2026年9月28日に1.0を出したCMSで、Astroの上に管理画面とデータベースを足したもの。静的サイトとの違いは、管理画面を持つかどうかに集まる
- 更新が月に数回までなら静的サイト。記事を週に何本も複数人で出すならEmDashかヘッドレスCMS
- EmDashのソフトは無料だが、隔離したプラグインを使うにはCloudflareの有料プラン(月5ドルから)が要り、構築と保守の費用は別に乗る
- WordPressからは記事、固定ページ、画像、カテゴリーが移る。見た目とプラグインは作り直し。予約公開とページビルダーの部分は手で直す
- 会員、予約、ECがプラグインで動いている会社は、どちらにも急いで移さず、WordPressのまま保守先を見直す

